研究概要 |
材料の強度をその組織から予測する試みはこれまで多く行われた.それらは比較的簡単な多重回帰式によって,化学組成と組織因子から材質を予測しているケースが多い.しかし現状では組織から重回帰式で予測される機械的性質の精度は満足できる状態にはない. 化学組成と組織から計算される機械的性質の精度が良くないのは,以下の3つの理由が考えられる. 1つ目は組織の測定精度である.実際の組織の測定におけるばらつきは,機械的性質の測定におけるばらつきよりも大きい. 2つ目は組織の因子を純粋に取り出す事の困難さである. 3つ目は現実的な測定作業のしやすさの問題である. 以上,組織から材料強度を予測する場合,特に組織の測定精度が機械的試験におけるばらつきよりもはるかに大きいことから,組織を基準にしているかぎり精度の高い機械的性質の予測は非常に困難であると考えられる.従って,精度の高い強度予測を行うためには,組織の測定を含まない材質予測の方法が検討されるべきである.この為材料の組織の測定を伴わない強度予測の方法の一つとして著者は材料強度熱力学を提案した.これは材料の強度が組織の自由エネルギーの平方根に比例すると考えられること,および相変態を通して作製される材料における組織のエネルギーは相変態の駆動力とある一定の関係があるという2つの原則の上に立つ.この2つの原理から材料の強度は相変態の駆動力の平方根に比例するという関係が予想され,実際パ-ライト鋼でこのことが確かめられた.今後相変態の理論から変態によって形成される組織が今以上に正確に予測されるようになると考えられる.特に非平衡熱力学を使った変態組織の理論が進めば,変態の駆動力や母相の状態から変態生成物に残る格子欠陥の種類と量が見積もれ,これを基にした強度予測がより発展するものと期待される.
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