赤、紫から、青色にいたる多彩な花の色はそのほとんどがアントシアニンによる。アントシアニンはpHにより連続的に色が変化し、その安定化には色素分子が非共有結合性の弱い分子間相互作用により会合することが必須である。新規花色、特に青色花色の発現には、液胞pHの制御が極めて深く関わる。本研究では、この観点から西洋アサガオ(Ipomoea tricolor)花弁が、細胞のpH変化により色を変えることを、生きた細胞の直接pH測定により初めて解明した。 空色西洋アサガオの蕾は赤紫色で、開花に伴い青色へと変わる。この花弁色素は、分子内に存在する複数個の芳香族有機酸の分子内会合により安定化される。つぼみと開花花弁から色素を抽出してHPLCで分析したところ、いずれにも、色素としてはヘブンリーブルーアントシアニン(HBA)しか含まれておらず、開花に伴う花色変化はpH変化によることが強く示唆された。そこで、植物細胞内微小電極を用いてアサガオ液胞pHの精密測定を試みた。顕微鏡下花弁の切片に微小pH電極を刺し、膜電位をモニターしながらpHを測定した。青色花弁液胞のpHは約7.7という高値を示し、一方、赤紫色の蕾花弁の液胞pHは6.6と低いことがわかったこの数値は、HBAをそれぞれの緩衝液に溶解したときの色とも良く一致した。空色アサガオの開花に伴う色の変化は、液胞pHが7.7へと劇的に上昇するためであることが明らかになり、WillstatterのpH説を実際の花色変化として初めて証明することに成功した。アサガオでなぜ、液胞pHがこのように異常に高くなるメカニズムで起こるのか今後の課題である。
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