研究課題
1.完全収着理論式の誘導:食品包材フィルムの種類を限定することなく香気成分の該当フィルムに対する収着挙動を適切に把握するために、まず収着に直接的に影響を及ぼすポリマー物性因子の特定化を図った。すなわち、物性因子としてフィルムの結晶化度、フレキシビリティーを選択し、両パラメーターの収着に対する影響度を測定した。その結果、結晶化度の異なる3種のポリエチレンフィルム(高密度、中密度、低密度ポリエチレン)に対する収着量と収着時に働くエネルギー変化量(Vv[δv^2-δc^2]/RT)の間には比例関係が存在し、結晶化度は収着エネルギーに対して約4.2%の負の抑制効果を示すことを明らかにした。さらに、フレキシビリティーの指標であるTgと収着量の関係をEVOH(32mol%エチレン含量)フィルムを用いて検討した結果、水分吸着に伴うTgの低下(68℃から-9℃へと低下)に従って香気成分の収着量は増大したが、Tgが一定の場合には収着量は測定温度依存的に減少することが判明した。従って、フィルムのTgが一定とみなされる条件では実際温度とTgとの温度差と収着量との間には何らかの相関関係が成立するものと考察された。2.低分子ガスの透過佐を良好に反映することが可能なPermachor値を用いてγとの関係を明らかにした。Permachor値は次式で示されるようにフィルムの凝集エネルギーと自由体積から算出される。Permachor value(π)=71 ln[(δ^2/fv)-5.7][J/cm^3] δ;凝集エネルギー密度 fv;自由体積その結果、気相系におけるγとPermachor値との間には相関関係0.993の良好な比例関係が成立した。このことは、香気成分の収着挙動を予測する上でフィルムの結晶性は極めて重要であることを示唆しており、気相系における収着式を次のように誘導した。S=So exp πVv(δv^2-δc^2)RT=So exp 71 ln[(δ^2/fv)-5.7]Vv(δv^2-δc^2)/RT以上、本研究によって気相系での香気成分の収着を予測し得る収着理論式を誘導し得た。これにより、固体食品において香りの損失が最少となる包材の選択、設計が初めて可能となった。なお、水溶液系においてはPermachor値の補正のみでは理論式の設定は不可能であった。これは、前述したように水溶液系では水分収着によるTgの変化などより多くの因子が関与しているためであると推察された。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)