研究概要 |
本研究は,遺伝子導入法により植物の受精様式を遺伝的に制御するための技術開発を目的としており,自家和合性の植物を自家不和合性に形質転換することにより,従来一部の植物に限定されていたハイブリット種子の生産が,より広範な植物にも適用できる可能性がある.トマト野生種Lycopersicon peruvianumは配偶体型自家不和合性を有し,その雌蕊で発現しているリボヌクレアーゼ(S-RNase)が自己花粉管の伸長阻害に関与していることが明らかにされている.本年度においては,このトマト野生種の花柱cDNAライブラリーからスクリーニングして得たS6とS7-RNaseのcDNAクローンを用いて,センスとアンチセンスcDNAをバイナリーベクターのT-DNA領域に挿入した.また,S-RNaseのプロモーターを得るため,それぞれの5'上流域に相当するゲノムシークエンスを得て,これらの塩基配列の解析を行なった.さらに,これらS-RNaseプロモーターの発現強度や発現組織特異性を明らかにするため,レポーター遺伝子(GUS)を連結し形質転換体を得る実験が進行中である.トマト栽培種ではアグロバクテリウムによる遺伝子導入法が既に確立されているが野生種L. peruvianumではまだ実験例が少ないことから,本年度においてはこの野生種における効率的な形質転換系の開発をおこなった.その結果,この野生種においても栽培種と同程度の形質転換体が効率的に得られることが明らかになった.今後は,構築したバイナリーベクターを用いてトマトの栽培種ならびに野生種へのS-RNase遺伝子の導入を行ない,得られた形質転換体における自家不和合性形質の発現を解析する予定である.
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