大腸菌の増殖停止期特異的なRNAポリメラーゼ・シグマ因子、σ38を持つホロ酵素(Eσ38)は、増殖期に主とし働くEσ70ホロ酵素とは異なるプロモーター配列要素を認識することが示されている。本研究では、増殖に必須なσ70とは異なり、改変によって増殖期における細胞への影響がほとんどないσ38のアミキ酸の生産性への影響を解析することにより、非増殖期細胞の特性を明らかにすることを最終目標としている。本年度の研究実績は以下の通りである。(1)改変型のrpoS遺伝子を造成し、σ38蛋白質のどの領域がプロモーター認識とその強度に関与しているかまたそれらの生理的な影響についての解析を進めている。σ38のC-末端領域は、σ活性そのものには不必要であり、活性を抑制するような働き、すなわち活性の調節を担っていることが明らかにされた。さらに領域4.2以降を欠失してもσ活性は維持されることが分かった。 (2)rpoS遺伝子の欠失により、増殖停止状態での生残率が影響を受けることが知られている。rpoS遺伝子の活性は、転写レベルのみならず転写後レベルでの影響を受けるが、さらにσ38自体の活性も細胞の増殖停止期に特異的な生理的な変化の影響を受けて、変化することが示唆された。例えば、in vitro転写系でのプロモーター活性のアッセイ系は、σ70で用いられている標準条件が最適ではないことが示された。(3)スレオニン生産に用いられている大腸菌を大量培養した際にどのような細胞状態にあるかをσ38蛋白質の量的な変動を指標として解析を進めている。実際にスレオニン生産を行っている時期の細胞では、σ38による転写活性が大きく寄与している可能性が示されている。関連するプロモーター領域の解析を進める予定である。
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