遺伝子組み換えで解糖系活性を強化した遺伝子転換酵母の安全性を、解糖系側鎖で合成される毒物メチルグリオキサールの変動を指標にして評価した。その結果、エイムズ(Ames)法で十分検知できる程度のメチルグリオキサールが細胞内に生成蓄積することを明らかにした。この結果は、少なくとも解糖系の遺伝子操作によって分子育種された遺伝子転換酵母には変異源性が生じ得ることを示唆している。そこで、メチルグリオキサール合成酵素を欠損させることによって、低毒性酵母を育種した(論文作製中)。この育種酵母では、遺伝子組み替えによるメチルグリオキサールの生成蓄積は微少であり、この方法により、安全な発酵工業用酵母の育種が可能であると判断された。 一方、大豆グリシニン遺伝子で形質転換した遺伝子転換ジャガイモについてその安全性を検討し、ジャガイモへのベクターそのものの導入が、アルカロイド系毒物であるソラニンやチャコニンの量を1.5〜2倍増大させることを明らかにした(論文作製中)。この結果は極めて重大であり、今後遺伝子転換作物(生物)に使うベクターと対象生物との厳密な「相性」の解析が、遺伝子工学食品の安全性確保に必要であることを指摘した。こうした問題点を含めて遺伝子工学食品について、消費者関係のセミナーで数回講演し、社会的受容態勢の確立に努めた。 また、胞子におけるメチルグリオキサール合成酵素の生理的意義について検討し、メチルグリオキサール合成酵素の活性変動が胞子形成能と密接に関連していることを明らかにした。この結果を、胞子形成能が欠落しているために遺伝解析と交雑による育種の研究が困難な醸造酵母に応用することによって、高頻度で胞子形成能を付与する事に成功し、醸造酵母の育種と遺伝解析に道を拓いた。この成果により、平成7年度日本生物工学会で共同研究者に江田賞が授与された。
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