研究概要 |
本研究は,環境を形成する重要な物理量あるいはそのフラックスを精度よく測定するシステムの開発や応用を目的とし,主な対象として農林地を考えている.今年度は特に,(1)畑地における土壌凍結深の計測技術の確立,(2)流域蒸発散量の微気象的測定,(3)木本植物の蒸散量の測定を個別に展開した.その概要は以下の通りである. 1.土壌凍結深計測:寒冷地の耕作,構造物の建設などに関与する重要な環境物理量の1つである土壌凍結深を,精度よく測定するための新たな方法を検討した.測定原理にはTDR(Time Domain Reflectometry)法を採用し,畑地土壌を対象として,同法による測定結果を熱電対温度法,メチレンブルー凍結深計による結果と比較した.その結果,TDRは凍結・融解両過程において,実用上十分な精度で凍結・融解深の計測に利用できること,また,融解過程においては,温度法による凍結・融解深の測定は著しく困難になる場合があることがわかった. 2.流域蒸発散量測定:土壌水分,気温,太陽エネルギなどの複合した結果を示す環境物理量である蒸発散量を,微気象因子(温度,湿度,純放射量,風速など)を実測し熱収支法により求めた.現場は互いに隣接する山林と造成農地流域であり,測定の結果,早天が続いた場合には山林での蒸発散量が造成農地でのそれより1mm/d程度大きくなることがわかった.この事実は,流域からの低水流出に重要な意味を持つ. 3.蒸散量測定:従来の蒸発散量から蒸散量という環境物理量を特定するために,これを直接測定する方法の開発を試みた.測定原理は,AE(Acoustic Emission)の抽出を基本とした.すなわち,木本植物を対象として,植物体内で発生するAEが蒸散量と関係することを想定し,AE数から蒸散量へ変換する可能性を検討した.その結果,特定の周波数帯に限定すれば,比較的精度よく蒸散量が得られることが示唆された.
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