植物の貯蔵器官を対象とした簡易な培養装置を開発することによって、新たな種苗生産体制の構築をめざした。 モデル植物として主にサトイモを用いた。まず、サトイモの大量培養条件を明らかにした。大量培養装置開発に関して、特に強制通気の問題点に注目した。すなわち、強制通気は成育を促進する反面、培養装置の構造や培養の管理作業を複雑化させる。また、植物器官は一般に酸素消費速度が遅いため、強制通気によって酸素供給量を確保する必要がない可能性があった。そこで、実際に、サトイモを液体培地中に沈めた状態で静置培養し、このような酸素供給が制限される条件下でも成育可能であることを確かめた。次に、回転ドラム型培養装置を利用し、強制通気を行わないで大量培養する培養装置を試作した。この培養装置内では、培養物は、培地中に没したり気相中に露出したりすることを繰り返す。この装置を用いて、サトイモ植物体が良好に生育することを確かめた。また、同じ原理でさらに簡易な培養装置を試作し、かつ、培養形態が全く異なる材料のモデルとしてジャガイモを用いて培養した結果、やはり良好な塊茎形成が観察された。 本研究の培養条件下で得られたサトイモ植物体の貯蔵物質含量を測定した結果、球茎(貯蔵器官)としては未成熟と考えられた。植物体は、培養後は直ちに順化する必要があった。順化は容易であったが、発根が弱く長期栽培中に枯死する株が目立った。この問題に対し、水、あるいは、ある種の抗酸化剤の水溶液中で短期間培養することによって、発根を促進できることがわかった。 以上の研究結果を総合し、簡易培養装置を利用した大量培養を中心とする種苗生産体制を構築する可能性が示唆された。
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