1998年には凍結保護剤として用いた2種類のPVPの有効性を調べた。この実験では1.8Mエチレングリコールと0.05Mトレファロースに分子量の異なる2種のPVP(分子量の2500と40000)の5、10、15、20%濃度を添加して牛卵子の成熟、未成熟別に比較検討した。その結果2500分子量が40000分子量のものよりも有効であり、その濃度は5%で有意に胚盤胞への発生率が高かった。また未成熟卵子(GV期)よりも成熟卵子(MII)のほうが凍結融解後の体外受精で胚盤胞胚になる率が高かった。また、これらの卵子の凍結融解過程での物理的障害は核のみに留まらず細胞の微小器官に及ぶことが、その後の胚の発生を損ねていると結論つけた。これらの研究から牛の未成熟卵子(GV期)や成熟卵子(MII期)の凍結保存において細胞への透過性の高いエチレングリコールやプロピレングリコールが有効であること、これらの凍結保護剤であっても低濃度のトレファロースやシュークロースが細胞への浸透圧ショックを緩和する役目を果たしていること、並びに5-10%のPVPが細胞外保護剤として有効であること、更にPVPの分子量は40000の大きさのものよりも2500の小さいものの方が有効であることが明らかにできた。核の成熟前のGV期卵が成熟したMII期卵に比べて凍結融解後の生存性が低下するのは、未成熟なものほど凍結融解の過程で物理的障害を受けやすいことを示唆している。特に未分化の核が一つしかないGV期卵や第一極体放出のMII期卵では核の物理的障害が致命傷となる。細胞質にある他の微小器官の障害もその後の卵の発生に大きなダメ-ジとなることが明らかにできた。
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