本研究は牛未成熟卵子(GV期)の凍結融解後の体外受精胚作出と移植による子牛生産技術の確立を目的に行われた.屠場より得られた牛卵巣からGV期卵子を吸引後、1.8Mエチレングリコール(EG)、1.3Mエチレングリコール モノ メチルエーテル(EME)と1.6M1、2プロパネダイオール(PROH)の凍結保護剤に各種濃度のトレファロース(T)ならびにポリビニールピロリドン(PVP)を添加して用いた場合の有効性を検討した。またGV期と成熟卵子(MII期)を1.6MPROHで凍結融解し電子顕微鏡的解析を行った。その結果1.8M EG+5%PVP+0.05MTの組み合わせで凍結融解後体外成熟、体外受精を行った実験ではGV期卵子の78%がM-II期へ、22%が変性し単為発生はみられなかった。受精率は1.8M EG+0.05MTまたは0.1MTで凍結保存したものが1.8M EG+0.2MTで凍結保存したものよりも有意(P<0.05)に高かった。しかし、正常受精と多精子侵入率との間には差異が認められなかった。凍結保護剤として用いたEG.EMEとPROH間にはGV期卵子の生存性に差異はなく、これらの凍結保護剤に0.05Mまたは0.1MのTを添加して用いた例では0.2MのTを添加してものよりも卵割率、胚盤胞発生率が有意に高かった。更に1.8M EG+0.05M Tに5%の割合でPVPを添加してGV期卵子を凍結融解後体外受精した実験ではPVPの0、10、20%添加例に比べて分割率、胚盤胞率が高く、それぞれ47.1%、20%の割合であった。凍結融解卵子の電子顕微鏡的観察では卵黄膜、マイクロビリ-、ミトコンドリアや卵子を取り巻く顆粒膜細胞や卵丘細胞に極度な障害がみられ、この割合はMII卵子よりもGV期卵子で著明であった。この実験で得られた胚盤胞を2個ずつ3頭の受胚牛に移植したところ、このうち2頭が妊娠し、1頭の単子と1対の双子、計3頭の産子が得られた。
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