近年、パンコムギに高頻度に染色体構造異常を誘発する遺伝子が近緑野生種に発見され、それを利用した染色体再編成の系が確立している。本試験研究は、ライムギ染色体をモデルケースとし、この染色体再編成系をライムギ染色体の添加系統に応用し、多数のライムギとパンコムギ染色間の転座系統の育成とライムギ染色体の多数の欠失系統の育成することを目的とした。今年度は、パンコムギのライムギ1R/1B染色体置換系統(Burgas2)にAegilops triuncialis染色体(tr)の添加系統を交配した雑種第一代の自殖子孫から2n=43(20"+1"1R+1'tr)染色体構成を持つ11個体を選抜、栽培して、それらから自殖種子を得た。次に、この全ての自殖種子(257粒)を播種し、染色体調査のための根端を採取、前処理、固定した。現在、これらの自殖子孫の染色体構成をC-バンド分染法によって調査中である。中途の結果であるが、親と同じ2n=43個体は約4分の1出現するので、1Rの染色体構造変異を選抜するのに十分な数の個体が得られることが明らかになった。また、1Rを含む転座染色体が2つ、1Rの欠失が7つすでに得られており、この染色体再編成の系が有効であることも証明された。さらに、1R染色体をパンコムギ染色体から識別するため、ライムギの全ゲノムDNAをプローブとする分子雑種形成法(in situ hybridization)を蛍光顕微鏡を用いてできるようにした。これにより、次年度には、大規模に1R染色体の欠失、転座を選抜し、その詳しい染色体構造を解析できるようになった。
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