近年、パンコムギに高頻度に染色体構造異常を誘発する遺伝子が近縁野生種に発見され、それを利用した染色体再編成系が確立した。本研究は、この染色体再編成系を、モデルケースとしてのライムギ染色体に応用し、ムギ類の遺伝学、育種学の基礎研究材料となる、ライムギ染色体の欠失系統及びパンコムギ染色体との転座系統を育成することを目的とした。2年間での研究の結果、1)ライムギの1R染色体についての染色体再編成を起こす系統の育成と2)1R染色体の欠失、転座の検出方法の確立、が達成された。1)については、まず、パンコムギの1R/1B染色体置換品種に野生種の3C染色体(Aegilops triuncialis由来)添加系統を交配し、その子孫から2n=43 (20"+1"1R+1'3C)染色体構成をもつ個体を選抜した。さらに、その子孫から2n=44 (20"+1"1R+1"3C)染色体構成の個体を得た。この個体と1R/1B染色体置換品種との交配により得られる雑種(20"1"1R+1'3C)は、子孫に染色体構造変異を生じることが期待され、これらの系統の育成により、今後は大規模な1R染色体の構造変異を選抜することが可能となった。2)については、まず、C-バンド分染法により、1R染色体の末端の欠失が容易に検出できることを明らかにした。次に、1R染色体を含む転座染色体での1R染色体部分を検出するため、蛍光顕微鏡観察による分子雑種形成法を確立した。さらに、1R染色体短腕の付随体に存在する貯蔵タンパクであるセカリンの遺伝子をPCR法により検出する方法を確立した。これらの細胞遺伝子学的技術の確立により、1R染色体の構造変異を効率よく検出できるようになるものと期待される。
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