カリニ肺炎は日和見感染症の一で、pneumocystis cariniiの感染・増殖によりおきる。AIDS患者の死因の第一位を占めが、1980年代後半に至って、ようやく分子生物学的な研究が我々を含めた複数の研究室で開始され、基礎的な知見が集積されるようになった。その結果、P.cariniiは真菌に分類されることが、遺伝子の分子系統学的な研究により明らかにされ、それらの塩基配列を利用したPCRによるDNA診断が可能となった。P.cariniiは肺胞に局在して増殖する。そのため、P.cariniiの病原性を解明する上で、表面抗原の研究は重要な意味をもつ。さらに、最近の研究により、感染防御の最初に働く肺胞マクロファージは、P.cariniiの主要表面抗原であるMSG(Major Surface Glycoprotein)分子の高マンノース糖鎖部分を標的とすることや、肺胞細胞への接着にはフィブロネクチンをアダプターとしてMSG分子が作用すること等が報告され、MSG主要表面抗原糖タンパク質が"Pathobiology"に中心的な位置をしめる事実が明確になった。我々は、MSG糖タンパク質の分離精製、免疫生化学な研究を発端として、MSG遺伝子の分離、ゲノム編成、発現制御に関する研究を展開してきた。それら一連の研究によって、MSG遺伝子が多型・多重な遺伝子ファミリーを形成し、第8染色体のテロメア-領域にコードされるMSG遺伝子の発現部位(遺伝子スイッチ)に、サイレントなMSGレパートリーからDNA組み換え反応によって転移し多型なMSG糖タンパク質が発現する「抗原変換」を発見することができた。さらに、MSGを利用したワクチン開発、DNA診断、阻害剤等の新規な創薬戦略にも道を開くことができたものと考えている。P.cariniiの抗原変換は、菌類における初めて抗原変換の発見であり、生物学的にも、臨床医学的にも、今後とも重要な研究テーマである。
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