本研究課題では病原微生物を中心にリボゾームRNAの配列を使用した系統分類を進めるとともに、遺伝子配列を使用した病原体の同定方法を確立することを目的とした。 医学細菌学では約200種以上の細菌が危険度2以上の病原体として分類されており、その殆どの16SrRNAの配列が決定された。また日和見病原体に分類される菌種は1000種にのぼるが、その約95%のデータが蓄積されるに至った。そのため病原体を16SrRNAで菌種レベルまで同定する環境ができ上がり約1500塩基ある16SrRNAの約300塩基の配列を決定すれば種の同定ができることが判明した。我々は本研究テーマを通じ16SrRNAの8番から340番までのシークエンスの蓄積を行いDNAのデータベース作成を行ってきた。その結果、分離菌株の1集落からスタートし1日以内にシークエンスで正確な種の同定ができるプロトコールを作成することができた。この領域のデータベースの蓄積が進めば、すべての種の同定をこの方法で行うことが可能になると予測している。しかし医学細菌学の中では病原性菌種は病原因子を保有するが、あるいは病原因子を産生する株であるかが問題とされており、菌種の同定より進んで株の識別が要求されることがしばしばある。この目的のために染色体の多形成、ISパターン、リボゾームパターンが使用されているが、病原株の区別にはこれらの情報は有効ではない。株の認識と病原性の区別が可能な新たな遺伝子の検索が必要であることも本研究を通じて明らかになってきた。我々は本研究結果として蓄積した16SrRNAの部分配列をデータベースとして公開する計画であり、今後このデータの蓄積をすすめれば、環境に存在する多くの未知の細菌の系統解析に有用なデータベースになると考えている。
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