染色体テロメアDNAは、TTAGGGの繰り返し配列からなり、蛋白質成分と共に構成するテロメアは染色体の安定な維持に必須な機能構造体である。テロメア長は、DNA複製に伴う短小化とテロメレースによる伸長傾向の平衡関係の結果決定されるダイナミックな変化をとげる。そこで、腫瘍細胞におけるテロメア繰り返し配列の構造機能の変化とその医学的意義を明らかにするためには、腫瘍細胞の成立のどの段階で、テロメア長とテロメレース活性とがいかに変化するかを解析する必要がある。まず、正常人の抹消血有核細胞のテロメア長を測定したところ、おおむね検体の由来する個体の年齢と相関して減少することを見いだした。しかし、調べられた最も高齢の98歳の正常人でも、平均テロメア長は約6kbを示し、正常個体の示すテロメア長には下限があることが示唆された。一方、慢性骨髄性白血病(CML)と急性骨髄性白血病(AML)では、患者の年齢に関わらずいずれも、正常人が示す下限値よりも短いテロメア長を示した。テロメレース活性を定量的かつ高感度で測定するために、我々はstretch PCR assayと呼ぶ方法を独自に開発した。テロメレース活性は正常細胞ではほとんど検出されなかったが、CMLの芽球転化後やAMLの再発例など、予後の悪い悪性化傾向の強い症例で特徴的に著しい活性が認められた。以上の検討から、短いテロメア長と強いテロメレース活性の二条件がそろうことは、悪性腫瘍の予後が悪いことを占う診断上の価値があることが示唆された。一方、逆に、この二条件が悪性腫瘍の進化の原動力となることを提唱した「テロメア・クライシス」モデルを発表した。
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