研究概要 |
平成7年度で、我々は膵β細胞からインスリンとともに放出されるATPを画像解析することにより、膵β細胞からインスリン分泌を検出することが可能であることを証明した(Diabetes 44:1213,1995)。さらに膵β細胞から放出されたATPはATP受容体P2x-4を介し、オートクリンの様式でインスリン分泌を調節している可能性を示唆した(Diabetes 44:1213,1995、Biochem.Biophys.Res.Commun.220:196,1996)。本年度ではグルコースによるインスリン分泌に対するATPの効果をさらに詳細に検討した。ATP受容体の抑制剤であるスラミンはグルコース及びATPより引き起こされる膵β細胞内カルシウムの上昇を可逆的に、しかも用量依存的に抑制した。しかし、スラミンはグルコース代謝の指標となるNAD(P)Hに対して何ら影響を及ぼさなかった。従って、グルコースによる細胞内カルシウム上昇に対するスラミンの抑制効果はグルコース代謝の抑制を介するものではないことが示唆される。さらに、スラミンは、ATP感受性Kチャネルを抑制するトルブタミド、電位依存性カルシウムチャネルによるカルシウム流入を促進するアルギニンならびに細胞内カルシウム動員を促進するアセチルコリンなどにより惹起される細胞内カルシウム上昇に対しても何ら影響を及ぼさなかった。以上の事実より、ATPはグルコース代謝、細胞外からのカルシウム流入や細胞内カルシウム動員を介さない系により、グルコースによるインスリン分泌を修飾している可能性が示唆された。
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