研究概要 |
糖とのメイラード反応によって蛋白は蛍光・褐色変化・分子架橋を特徴とする後期反応生成物(AGE)による修飾を受ける。近年、AGEは糖尿病合併症の発症因子の一つとして提唱されているが、AGEの如何なる構造体がこれらの病変発症と関係しているかを明確にする必要がある。本研究プロジェクトは、我々が見い出した主要AGE構造体(以下X1と省略する)の構造を決定し、その生体内発現を解析し、X1の種々の病態における意義を明確にすることを目的としてスタートし、研究期間内(平成7-8年度)に以下の成果を得ることができた。 (1)X1の構造決定:我々はα-tosyl-lysine-methyl esterを出発材料とし、グルコースと保温し、褐色・蛍光性のAGE標品を調整し、その中から、主要蛍光物質であるX1を単離し、質量分析、及び核磁気共鳴による機器分析によって構造を決定した。その化学構造は1,7-disubstituted-5-(1,2,3,4-tetrahydroxybutyl)-1,4-dihydro-4-oxo-1,7-naphthyridinium cation、即ち、2個のリジン残基が2個のグルコース分子に由来するピリジニウム構造によって架橋された蛍光性構造であった。 (2)X1を発現している生体蛋白の同定:抗X1抗体を用いた免疫学的解析によって、X1が、(i)ヒト水晶体に発現し、加齢依存的に増加すること、(ii)ヒト冠状動脈の粥状動脈硬化病巣の泡沫細胞並びに細胞外蛋白、(iii)糖尿病患者の腎臓、(iv)透析性アミロイドーシスの手根管沈着部位、(v)日光性弾力線維症の病変部などに存在することが明確になった。これらの結果は、主要AGE構造体であるX1による生体蛋白の修飾が老化現象や糖尿病合併症、動脈硬化症などの加齢によって促進される病態の発症・促進因子として作用している可能性を示唆している。今後は、血液及び尿蛋白でのX1定量系の確立ならびに上記病変部におけるX1の蓄積量を定量的に把握することが必要であろう。
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