研究概要 |
H-ras抑制変異体遺伝子N116Yを用いてRASタンパク質の機能を抑制し、ヒト膵癌細胞の腫瘍形質を喪失させることができるかどうかを検討した。実験には膵癌細胞株8株(PCI 10, 19, 24, 35, 43, 55, 64, 66)を用い、これらに対しN116Yの発現ベクターであるpZIP-N116Yをリポフェクション法により導入し、増殖抑制効果及び腫瘍形成に対する作用を検討した。これらの膵癌細胞株8株のG418選択培地下でのコロニー形成は、pZIP-N116Yの遺伝子導入によってK-ras変異の存在にかかわらず強力に抑制された。特に、PCI 10, 24, 64の3株においては細胞増殖が完全に抑制され、全ての細胞株において80%以上の増殖抑制率を示した。 次に、pZIP-N116Y遺伝子導入後のG418耐性PCI 35コロニーより、N116Yが安定して発現している4株クローン化した(PIC 35 N116Y-3, -4, -6, -7)。これらのN116Y発現膵癌細胞株は、親株(PIC 35)及びpZIP neo SV (X)導入株(PIC 35 neo-2, -3, -6)と比較し、円形或いは島状のコロニーを形成して進展性の喪失を示唆する形態変化をきたした。また、軟寒天培地における増殖能を比較したところ、N116Y発現膵癌細胞株では有意にコロニー形成率が低下しており、N116Yの遺伝子導入により親株の持つ足場非依存症増殖能が強力に抑制されたことを示した。さらに、これらのクローンのヌードマウスにおける造腫瘍性を検討したところ、pZIP neo SV (X)導入株が4週までに全てのクローンで腫瘍を形成したのに対し、N116Y発現膵癌細胞株はいずれも腫瘍を形成せず、N116Y遺伝子導入により造腫瘍性が喪失したことを示した。
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