研究概要 |
VHL癌抑制遺伝子の細胞内での作用はまだ不明の点が多い。大きな作用の一つは、核内の転写伸長の促進因子SIIIと競合してメッセンジャーRNAの転写の伸長反応を抑制する事であろうと考えられている。細胞内での発現の結果で、間接的にVascular endothelial growth factor(VEGF),PDGF beta chainなどの発現抑制が見られる。また、細胞内での発現で増殖やDNA合成の抑制効果もみられ、MAP Kinase cascadeとの関係も示唆される。 今回、VHL癌抑制遺伝子を遺伝子治療に利用するため、またin vivoでVHL癌抑制遺伝子の機能を知る目的で、我々はヒト腎癌細胞を対象としてHSVvector系を用いて、実験的な遺伝子治療の検討を試みた。今回の実験の主目的は1つにはHSVvectorにVHL遺伝子を組み込んで直接,in vivoで遺伝子治療が可能かを試みることと、もう1つはこの系を使用してVHL蛋白を細胞内へ多量に発現させて細胞内での作用機構を解明することであった。その結果、HSVvectorの系は神経系の細胞のみならず、腎細胞でも感染し、目的のVHL蛋白を発現した。すべての腎細胞で定性的にも、定量的にもVHL蛋白はほぼすべての細胞で発現を示し、この点では我々の研究目的を満たしていた。今回の結果ではVHL蛋白は発現し、増殖抑制効果は示すが、残念ながら、HSVvector系は培養腎癌細胞に対して細胞障害性を示した。この点の克服が我々の研究の問題点であり今後Vectorの改善が必要と考えられた。
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