研究概要 |
平成8年度に行うことを計画した研究は1)polyanethole sulphonic acidを用いて、細胞が産生するlipoteichoic acidの合成に及ぼす影響についての研究 2)polyanethole sulphonic acidを用いて、ATL前駆体を電荷に及ぼす影響についての研究 3)ATLのタンパク中に現れる繰り返し配列部位に相当するペプチドを合成し、ペプチドによるATLの貯留に及ぼす影響、黄色ブドウ球菌の溶菌の誘導についての研究であった。このうち、実際に成果が得られたものは3)である。私たちはATLのThr432-Lys610に存在する繰り返し構造(1)に基づいて10から30残基のオリゴペプチドを合成した。低イオン強度下で、ペプチド番号A10,A11,A14およびA16は黄色ブドウ球菌細胞懸濁液の濁度の急激な変化とともに生細胞数の減少をひきおこすことが明らかになった。濁度の変化を観察することによって、A10とA14は自己溶解に対して阻害的に、A11とA16は自己溶解を誘導することが明らかとなった。これらの全体的な電荷はリジンを含むために陽性で、アッセイ系に50mMNaClを添加することでペプチドの生物学的活性を失わせることができることが分かった。透過型電子顕微鏡によってA11,A16によって自己溶解が誘導された細胞の切片を観察した結果、細胞の次期隔壁形成部(分裂部)でATLが局在していると考えられる部位に細胞壁、細胞膜の欠損が認められた。一方、A10では溶菌像は認められなかったが、各所での細胞膜の断裂が認められた。以上のことから、これらのペプチドはATLの貯留メカニズムを妨害することで生物活性をあらわすことが強く示唆された。今後、さらにこれらのペプチドを用いてATLの活性化機構、貯留機構を明らかにし、ペプチドの抗菌作用を明らかにする必要がある。
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