研究概要 |
本研究の目的はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に作用する新しい抗菌ぺプチドの開発であった。私共は黄色ブドウ球菌の主要オートリシンATL遺伝子をクローニングし、その遺伝子産物が菌体クラスターの分離に関与することを明らかにした。また、黄色ブドウ球菌のオートリシンパターンが増殖時期により変化することを見出し、ATLが分泌された後にプロセシングを受けることを示唆するデータを得た。また、免疫電子顕微鏡観察によりATLが菌体表層に局在していることを明らかにし、ペニシリンによる特異な溶菌像との比較からATLが黄色ブドウ球菌の自己溶解に必須であると考えた。これらの成果に基づいてATLの貯留配列と考えられるアミノ酸配列を基にオリゴペプチドを合成し、ペプチドによるATLの貯留に及ぼす影響、黄色ブドウ球菌の溶菌の誘導について検討した。低イオン強度下で、ペプチド番号A10,A11,A14およびA16は黄色ぶどう球菌細胞縣濁液の濁度の急激な変化とともに生細胞数の減少をひきおこすことが明らかになった。濁度の変化を観察することによって、A10とA14は自己溶解に対して阻害的に、A11とA16は自己溶解を誘導することが明らかとなった。これらの全体的な電荷はリジンを含むために陽性で、アッセイ系に50mMNaClを添加することでペプチドの生物学的活性を失わせることができることが分かった。透過型電子顕微鏡によってA11,A16によって自己溶解が誘導された細胞の切片を観察した結果、細胞の次期隔壁形成部(分裂部)でATLが局在していると考えられる部位に細胞壁、細胞膜の欠損が認められた。一方、A10では溶菌像は認められなかったが、各所での細胞膜の断裂が認められた。以上のことから、これらのペプチドはATLの貯留メカニズムを妨害することで生物活性をあらわすことが強く示唆された。
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