従来の、酸無水物や酸クロリドをはじめ数多くの活性型カルボン酸誘導体のアシル化剤を用いると、塩基の共存が必要であったり、反応で副生する不揮発生物質の除去のために、副反応の進行、生成物の分解、精製が困難などの問題を生じることがしばしばあった。本研究では、従来法の問題点や欠点をケテンアセタール型アシル化剤(1)を用いることで解決し、その実用化を図ると共に、本反応剤の特長を生かした新手法の開発等を目的とし、本年度は、研究計画に基づき以下の研究を行った。 1.ルテニウム触媒存在下、エトキシアセチレンに種々のカルボン酸を付加させる方法で、反応活性や嵩高さの異なる種々のアシル化剤(1)の大量合成に成功した。更に、安定で取扱い易いシリルケテン類から、新規1型反応剤の合成に有用なシロキシアセチレン類を効率よく合成できることを見出した。 2.リパーゼを利用するアルコール類の光学分割法では、現在ビニルアセタート(VA)がアシル化剤として最も汎用されているが、反応で副生するアルデヒドが酵素の触媒毒になる場合が有り、必ずしも有効な手段ではない。我々は、アセチル化剤(1)を用いると、VAと同様の反応活性を有し、かつ、触媒毒の問題がないため、従来法に代わるより安全で効率的な光学分割法になることを明らかにした。 3.我々はこれまで、反応剤(1)に関連したケテンアセタール型シリル化剤(2)を用いて、種々の光学活性スルホキシド類の高立体選択的不斉プメラ-型転位反応を多数見出してきたが、同様のシリル化剤(2)でも、シリル基上の置換基を小さくすると(例えば、SiMe3)、反応剤由来のエステルエノラートがプメラ-中間体に求核攻撃し、転位反応よりも炭素-炭素結合形成反応を立体選択的に起こすことを見出した。現在、アシル化剤(1)とシリル化剤(2)の両方を用いて、これらの立体選択的な反応の拡張を遂行中である。
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