研究概要 |
本研究では、臨床的に重要な黄色ブドウ球菌の多剤排出蛋白NorAおよび緑膿菌のMexAB両多剤排出蛋白に加えて、大腸菌のTet(B)に対する阻害剤を耐性度に対する相乗効果でスクリーニングする系を確立し、山之内製薬株式会社の協力を得て、10万検体以上の化合物をチェックした。 まず、NorA,MexABをそれぞれ黄色ブドウ球菌と緑膿菌で発現するプラスミドを構築し、それぞれの内在性遺伝子欠損株に導入発現させる。対照として、宿主菌を用意し、排出されることによって耐性化するキノロン剤、β-ラクタム剤に対する抗菌力を、各種の化合物を加えた培地で測定した。その結果、いくつかの阻害剤が得られたが、阻害剤の検出頻度は同様のスクリーニングに比べて異様に低いものであった。このことは、細菌の多剤排出蛋白の特異的阻害剤がきわめてまれであることを示している。すなわち、耐性因子としての多剤排出蛋白の克服が容易でないことが改めて証明された結果になってしまった。本研究と並行して、我々とは別の、米国のベンチャービジネス企業が同様の方法を用いてやはり6万検体以上のスクリーニングを行い、やはりめぼしい阻害剤が得られないと言う結果になっている。彼らはなお研究を継続している。我々も、本研究終了後もスクリーニングは継続する予定である。 上に述べた研究とは別に、黄色ブドウ球菌のテトラサイクリン排出蛋白Tet(K)の阻害剤をロッシュの自家化合物の中からスクリーニングしたところ、特異的阻害剤としてインダン誘導体が得られた。これについても引き続きその性質を検討している。 以上のような現状に鑑み、異物排出蛋白阻害剤の開発にはドラッグデザインの手法が必要になるものと判断し、基質認識部位の立体構造決定にも取り組んだ。蛋白工学的手法によって立体構造を推定し、コンピューター計算で最適構造を求めるという手法で立体構造モデルを提出することができた。今後はこのモデルの検証と、これに基づく阻害剤の理論的設計を行いたい。
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