この研究では、昆虫の感染防御に関与する様々な抗菌性蛋白の活性ドメイン(ペプチド)を同定し、そのようなペプチドをリ-ドとする新しい抗菌剤の創出を目的としている。センチニクバエの抗菌性蛋白の一つザ-ペシンBでは、アミノ酸11残基よりなるα-ヘリックス部分が活性ドメインで、この部分だけでもとのザ-ペシンBと同定度の抗菌活性を示すことが分かっている。本年度は、このペプチドの改変体を種々合成し、もとのペプチドより優れた抗菌活性を示すペプチドを8種類合成した。その中で、KLKLLLLLKLK-NH_2がグラム陰性菌、グラム陽性菌およびある種の真菌に対して勝れた殺菌効果を示すことが明らかになった。ところが、このペプチドはリジンを多く含むためプロテアーゼによる消化を受けやすく、特にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は最初は増殖が抑えられているが、長時間培養していると再び増殖が見られるようになった。おそらくこれは、MRSAが産生するプロテアーゼによりペプチドが分解されてしまうためと判断された。そこで、このペプチドのアミノ酸をすべてD-体で置換したD-エナンチオマーを合成してテストしたところ、このペプチドは持続的にMRSAの増殖を抑制することが明らかになった。ついで、これら2種類のペプチドの感染防御効果を検討した。まず、サイクロフォスファミドを投与して免疫を抑制したマウスにMRSAを感染させた。15分後に200μgのペプチドを投与して経過を観察した。その結果、KLKLLLLLKLK-NH_2投与群では100%感染が防御されるのに対して、D-エナンチオマー投与群では60%程度の感染防御効果しか見られなかった。D-エナンチオマーの方が持続性があるはずなのに、何故感染防御効果がおとるのかは今後の検討に待たなければならない。
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