アルツハイマー病の病変が顕著に現れる脳の領域では、神経細胞の情報が活発に行われ、タンパク質リン酸化酵素活性が高いことが知られている。アルツハイマー病の病因をタンパク質リン酸化反応に注目して細胞レベルで解析するために、培養細胞にcDNAを導入し発現させることにより、アルツハイマー病にみられるような細胞死を誘導する条件を見い出すこと、タウのリン酸化に注目し、タウの存在状態とリン酸化部位の関係を明かにすること、リン酸化の異常とその原因、および、それを正常化するための条件を見い出すことを目的とし次のような結果を得た。(1)タウcDNAの発現ベクターを構築し、プロテインキナーゼを過剰発現する培養神経芽細胞に導入し、それぞれのタンパク質を過剰発現する細胞を選択し、タウcDNA導入細胞を確立した。(2)胚性ガン細胞由来のP19細胞では、神経分化にともない、プロテインキナーゼ活性が誘導され、未分化細胞の10倍にも増加することを最近見い出した。このとき、CaM kinase II δアイソフォームが誘導され、しかも未分化のものと、スプライシングが異なることが明らかとなった。神経分化にともなうリン酸化の変化を解析する条件が整った。(3)このP19細胞にもタウcDNAを導入し、タウを過剰に発現する細胞を選択し、神経分化能をもちタウを発現する細胞を確立した。現在、タウ発現細胞を用いてタウのリン酸化を調べ、どのような条件で、リン酸化が増大するか、また、どのような条件でリン酸化を抑制することができるか解析しているところである。
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