研究概要 |
平成9年度は以下の項目の検討について、結果を得た。 1)中枢神経系傷害時のグリア細胞の増殖および神経細胞の変性へのエンドセリン(ET)の関与 申請者らはすでに、ラット急性虚血性脳傷害モデルにおいて、傷害後早期の組織修復におけるアストロサイトの脱分化・増殖のトリガーとして内因性ET-1が関与する可能性を報告している(J.Neurosci.Res.47,590-602.Hama.et al.)。そこで、その可能性をより直接的に証明するために、ET受容体のブロッカーであるSB209670を用いてさらに検討を加えた。ブロッカーの適用の簡便さから、この実験においてはラット脊髄損傷モデルを用いた。なお、脊髄由来アストロサイトのET-1に対する挙動が、その受容体(ET_B)の発現も含めて大脳由来のアストロサイトと近似することを予備実験において確認している。 脊髄損傷後24h以内に組織内ET-1レベルの上昇とともに、アストロサイトのG1/S tramsition、すなわち脱分化・増殖が認められ、このアストロサイトの増殖はSB209670の適用により有意に抑えられた(研究発表の項1参照)。また、同モデルにおいて、1週間後に顕著に確認される神経細胞の顕著な変性が、SB209670の適用により有意に抑制された、(研究発表の項2参照)。これら一連の研究によって、内因性ETが中枢神経系の組織修復に深く関与するとともに、gliosisの誘導因子になり得ることが示唆された(研究発表の項3参照)。 2)ET_B受容体のアストロサイトにおける発現の制御機構 申請者らはすでに、アストロサイトにおけるET_B受容体の高頻度な発現および、この発現が細胞の分化誘導によってさらに惹起されること、また、発生過程においてもグリア細胞の分化に準じてET_B受容体の発現が上昇することを確認している(Biochem.Biophys.Res.Commun.,186,355-362,Hama et al.;Biochem.Biophys.Res.Commun.,204,1325-1333,Kasuya et al.;Jap.J.Pharmacol.(Suppl.),67,242P,Tanaka et al.)。細胞の分化と細胞骨格の変化は密接に関係しているので、申請者らはアストロサイトの細胞骨格の変化によるET_B受容体の発現調節について検討を行った。その結果、ET_B受容体の発現は、アクチンフィラメントの変化には影響されないものの、チューブリンのmonomer/polymerの平衡状態の変化によって変動することが判明した。また、その調節様式は、転写後のET_B受容体mRNAの安定化の変化を通じて行われることを確認した(研究発表の項4参照)。 現在、rescued ET_B-knock outマウスを用いて、ETと中枢神経系傷害の関連性についてさらに検討を加えている。
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