本研究は、種々の生理的状態にある組織あるいは細胞を液体ヘリウムを用いた急速凍結とそれに続く凍結置換法またはディープエッチレプリカ法を用いて処理し、それぞれの状態における色々な細胞内蛋白質成分の静的な局在部位や細胞内におけるそれらの局在部位の移動を、主として免疫組織化学的手法を用いて調べる技術を開発することを目的としている。本年度はまず、1)急速凍結技術自体の良好な凍結部位の深度を上げること、2)そして凍結置換後に樹脂包埋・薄切した試料中の抗原を蛍光標識しその局在を示す微弱なシグナルを高感度・高分解能の冷却CCDカメラによって捉えることに努力した。第1の目的を果たすために、急速凍結装置を改造して純銅ブロック直上に強力な永久磁石をとりつけ凍結直前の試料を強い磁場にさらすことを試みたが、残念ながら対照試料との大きな差異は見られなかった。さらに目的を追求するために、フリージジングヘッド部分を熱伝導率の低い材質に変え、凍結直前に一瞬強い圧力をかける装置を新たに設計するなどの別の方向からの試みを継続している。第2の目的に関しては、哺乳動物小脳のプルキンエ細胞におけるイノシトール3燐酸受容体の分布を調べるべく急速凍結後フォルマリン/アセトンにより凍結置換を行い樹脂包埋後の超薄切片を抗イノシトール3燐酸受容体抗体で標識した。抗体染色は辛うじて肉眼的に認められる程度の弱いものであったが、冷却CCDにより撮影したプルキンエ細胞はその細胞体・樹状突起ともに多数の点状の像を明瞭に示し、多くの場合数個の点が直線状に並んで分布していた。同時に作製した切片の電子顕微鏡像からこれらの点状の構造物が滑面小胞体であることが判明したが、同じ材料のフリーズレプリカ像において、相当する部位に2次元結晶を形成する膜蛋白質が検出された。さまざまな証拠からこの蛋白質はイノシトール3燐酸受容体であろうと考えられる。
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