約24時間の周期を示す概日リズムは、原核生物からヒトに至るほとんど全ての生物にみられる内因性の振動現象である。概日リズムの特徴は、全ての生物に共通しているが、その発現の分子機構については明らかでない。本研究は、高等脊椎動物の概日リズムの分子機構を明らかにするために、マウスを用いて概日リズムの突然変異を分離することを目的とした。そのために、(1)化学変異原物質を用いた人為的突然変異の誘発、(2)野生マウス集団からの分離、(3)既存系統のスクリーニングを行った。これらの方法により、幾つかの突然変異マウスを発見したが、さらに、マウスの交配過程で偶然にリズム異常マウスを見出すこともできた。野生マウス集団からは、恒常暗でリズムが消失する突然変異を発見した。分離した無周期突然変異マウスについて、遺伝学的ならびに行動学的解析を行った結果、リズム消失は劣性形質として遺伝するが、周期に関しては半優勢の遺伝特徴を持つことが分かった。既存系統からは、周期が24時間より長く、恒常暗でリズム分割を起こすCSマウスを発見した。この系統と、正常リズムを示すC57BLマウスを使って、周期に影響する遺伝子をQTL(Quantitative trait locus)法によりマッピングした。その結果、第5染色体(LOD=3.5)、第12染色体(LOD=3.4)、第19染色体(LOD=3.7)においてQTLの存在が示唆された。さらにこれを確認するために、CSとMSMマウスの交配より得たF2個体についてこれらの領域を調べたところ、第19染色体上の同じ染色体領域で高いLOD値(LOD=4.2)が得られた。以上の結果から、CSマウスの周期に影響する遺伝子は複数存在し、特に、第19染色体上の遺伝子が周期延長に強く関与していることが示唆された。最後に、マウス交配過程で偶然8時間周期を示すマウスを発見したが、これについては、今後の研究のために系統育成に力を注いだ。
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