研究概要 |
本研究の目的は転写抑制あるいは促進に直接作用する薬剤のスクリーニングの系を確立するために,目的の遺伝子の転写調節領域とルシフェラーゼ遺伝子との融合遺伝子を導入した細胞系を用いることである.そのためにまず,先にクローン化したヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)遺伝子の上流とルシフェラーゼ遺伝子との融合遺伝子を作成し,肥満細胞に恒久的に遺伝子導入し,HDC遺伝子の転写活性に種々薬物がどのように影響するかをルシフェラーゼの活性を測定することによって評価する.マウスHDCに関してはすでに,HDC遺伝子の転写開始点から上流1KbをpGL-2basicのmultiple cloning siteに挿入し,遺伝子構築は完成し,この遺伝子をマウス肥満細胞株P815に恒久的に遺伝子導入しP815-HDC-Lucを用意した.P815細胞は,デキサメタゾンとPMAで刺激するとHDC遺伝子の転写が増強され,上流85bp中心としたPEA-3配列が重要であることが示されている(大郷ら,BBRC1993).我々の用意したP815-HDC-LucもデキサメタゾンとPMAで刺激するとルシフェラーゼの発現が認められた.従って,このP815-HDC-LucはHDCの転写を評価する細胞として有用であると考えられた. マウス肥満細胞株P815は同型のマウスBDF1の腹腔中で腫瘍性の増殖をして新たにHDCを発現する.この発現はmRNAレベル,蛋白レベルおよびヒスタミンの上昇で観察された.このHDC誘導の機構を明らかにするため,腹腔内培養をp815-HDC-Lucで試みたところ,ルシフェラーゼの誘導は認められなかった.従って,腹腔内培養は上流1Kb内を介した反応ではないことが判明した.今後,更に1Kbより上流の遺伝子を挿入したプラスミッドを構築し,恒久的遺伝子導入細胞を用意し,腹腔内培養することにより,腹腔内培養での転写活性化をコントロールするシス配列を明らかにするつもりである.また同時にこの細胞を使って薬物の活性を見るスクリーニングの系に応用できそうなことがわかったので,今後は実際にヒトのHDCを用いて,スクリーニングの系に有用かどうかを検討するつもりである.
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