AFMで生物試料を観察する際に起こる試料の移動、損傷を防ぐ手段として、試料表面を有機物の薄膜で被覆する方法の検討を行った。薄膜は、ブタン、ナフタレン、オスミウムなどが利用で来る。薄膜は、真空内でこれら化合物の蒸気を充満させた環境を作り、ここで交流によるグロウ放電を行い、試料表面にこれら化合物の薄膜を作らせる装置で、本研究課題で購入した装置である。この装置は、これまでのグロウ放電蒸着装置より遥かに薄く克つ粒状性の細かな蒸着膜を作ることが出来る。この装置により、試料(線維状ファージ)表面にナフタレン或いはオスミウムの薄膜を作製して観察すると、試料の移動、損傷は全く起こらず、10回以上の同一視野の観察が可能である。しかし、観察を重ねると、線維状ファージのサイズが次第に大きく記録されるようになる。この状態でカンチレバ-を外し、チップの形状を走査電子顕微鏡で観察すると、チップの先端が磨耗して鈍化していることが明らかにされた。忠実なイメージの記録にはチップの形状が極めて重要である。また、生物試料に触れても磨滅が少ない材質の利用も考慮されるべきである。 生物の映像化には、まだどの条件が最適かは確定していない。その当面の試料として、グラム陰性菌の細胞表面の皺壁を目標として、これが観測できる条件を探すべきではないかとの結論に達した。
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