研究概要 |
象牙質知覚過敏症は高い発症頻度にもかかわらず、その治療法が確立されていない。申請者らはアパタイトのpHに対する溶解度差を利用して、歯質の構成成分であるアパタイトを象牙細管内に析出させることにより、開口した象牙細管を約10μmの深部にまで封鎖するアパタイト析出法を考察し、これまでin vitroで本法の検討を行ってきた。本年は、本法を臨床応用可能な処理法に改良するとともに、ヒトと歯牙組織が類似しているイヌを用いて本法による象牙細管封鎖効果を評価した。これまでのアパタイト析出法の後処理液の1MNaOHは強塩基(pH=12.4)であり、ヒト口腔内においては軟組織為害性の恐れがあった。そこで中和能が期待される種々の溶液(NaHCO_3,Na_2CO_3,NaOCl,HEPES等)を評価した結果、1MNaHCO_3を後処理液としてアパタイト析出法を施工した場合には、1MNaOHを後処理液として用いたこれまでのアパタイト析出法とほぼ同様の封鎖効果が得られることが分かった。NaHCO_3を医薬品として許可されており、またそのpHが8.1であることから本法を臨床応用するための後処理液として適当であると考えられた。本法をin vivoで評価する第一段階として、ビ-グル犬の大臼歯歯頚部に楔状窩洞を麻酔下で形成し、酸処理により象牙細管を開口させ、人工的に知覚過敏状態を惹起した。そしてアパタイト析出法を施した後に、象牙質生検法により象牙質片を採取した。SEM観察の結果、象牙細管は結晶性物質により封鎖されており、アパタイト析出法が生活歯における象牙細管封鎖にも有効であることが分かった。また象牙細管内析出物をX線マイクロアナライザーで分析した結果、析出物のCa/P比は1.67であり、析出物が歯質の無機主成分であるアパタイト様物質であることが分かった。本年度の研究成果をもとに、次年度は、アパタイト析出法の長期的評価を行う予定である。
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