研究概要 |
筆者らが開発した(S)-N-(アルコキシカルボニル)ビニルグリシンを用いるHeck反応は,Crispらによってエノールトリフレート類との反応に首尾よく応用されたものの,一般的なアリール体に対してはよい結果が得られていなかった.筆者らは,この反応が水を溶媒とすることによって好結果を与える場合があることを発見し,今回この反応を更に詳しく検討し,次のような成果を得た. 1.(S)-N-(ベンジロキシキシカルボニル)ビニルグリシンと4-ヨードアニソールとの反応について,用いる塩基を検討した.炭酸カリウム,炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムのいずれを用いても(E)-体のみが得られ,収率はこの順に減少したものの,光学収率は炭酸水素塩を用いた場合が優れていたので,炭酸水素ナトリウムを用いるのがよい.なお,トリエチルアミンを用いると立体選択性が減少し,(Z)-体も生成することが分かった. 2.このような反応条件下でも,チオフェン,イミダゾールあるいはイミダゾプリンなどの複素環のヨウ化物や4-ニトロ基あるいは4-アセチル基のような電子吸引性基をもつヨウ化ベンゼンとの反応は低収率であり,ブロモベンゼンのヨウ化物では光学純度85-90%の生成物が30-51%の収率で生成するに過ぎず,必ずしも満足すべき結果ではなかった.これに対して,ナフタレンや無置換あるいは電子供与性基を有するヨウ化ベンゼンでは95-98%eeの目的物が収率51-66%で生成した. 以上の結果,(S)-N-(ベンジロキシキシカルボニル)ビニルグリシンを用いるHeck反応は,水を溶媒として炭酸水素ナトリウム存在下で行えばナフタレンあるいは電子吸引性基をもたないフェニル基からなる光学活性(E)-2-アリールビニル)グリシン誘導体の優れた合成法となることが判明した.
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