ドセタキセル(Taxotere【○!R】)はチューブリンの重合促進・微小管の脱重合抑制という新しい薬理作用を有する新規抗癌剤であり、乳癌、非小細胞肺癌への臨床適応が期待されている。本研究課題では、ドセタキセルの体内動態と薬効・毒性の個人差を引き起こす要因を解明し、個別投与設計の科学的根拠となりうる生物統計学モデルを構築した。 癌患者を対象とした臨床試験において102症例の血中ドセタキセル濃度が測定された。得られた薬物血中濃度を3-compartment linear modelを構造モデルとする非線型混合モデルによって解析した。その結果、体内動態の個人差は引き起こす要因として、体表面積、血中α_1酸性糖蛋白質濃度、年齢、アルブミン濃度並びに肝機能であることを見いだした。さらに、日本人と欧米人とで本薬物の代謝に人種差は存在しないことを明らかにした。 次に、本薬のdose limiting toxicityである骨髄抑制について体内動態と薬効・毒性相関を記述する統計モデルの構築を行った。薬物動態指標としては、ドセタキセルの曲線下面積AUCあるいは1〜10nM以上の濃度が持続する時間とし、既に得られた薬物動態値を利用したベイジアン法により、採血点数の少ない患者についても算出することができた。解析の結果、骨髄抑制の指標である白血球減少あるいは好中球減少とAUCとの間には、sigmoid Emax modelで記述できる関係か認められた。さらに、肝機能低下患者はいずれも高度の骨髄抑制を示し、副作用発現のリスク・ファクターと考えられた。 以上、新規抗癌剤ドセタキセルを安全に使用する上で有用な統計モデルを構築するとともに、個別投与設計の科学的根拠となる基礎情報が得られた。
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