近年、小児や成人における呼吸窮迫症候群に活性酸素消去酵素であるヒトスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)を投与することにより肺組織傷害が軽減されることが報告されているが、それほど大きな効果が得られていない。これはSOD自体の体内半減期が著しく短く、加えて、肺に特異的に分布させることが困難なためと考えられる。 また様々な遺伝子を導入した細胞を移植または直接遺伝子を投与することで遺伝子疾患や癌などを治療しようとする試みが近年活発に行われ、その有効性が証明されつつある。そこで本研究はヒトSOD遺伝子をラット細胞に組み込み、これまでほとんど検討されていない高濃度SOD発現ラット細胞を実験動物に直接経肺投与することにより、肺組織局所部位でのSODを濃度を高め、SOD遺伝子治療の有用生を明らかにすることを目的として実験を行った。 このためには細胞内蛋白であるSODを分泌型蛋白とすることが必要とされる。そこで、IL2シグナル配列とヒトSOD cDNAからILSOD cDNAsを構築することにより、異種蛋白質の分泌シグナルをDNAレベルで付加することによる非分泌性蛋白質の分泌化の可能性が明らかとなった。 また、得られたILSOD cDNAsを導入した皮膚線維芽細胞ならびに肺上皮細胞は、顕著な活性酸素毒性防御作用を示すことがin vitro実験において明らかとなった。さらに、in vivo実験、すなわち寒冷浮腫ならびにカラゲニン誘発足浮腫に対してILSOD(1)cDNA導入線維芽細胞を移植する事により、顕著な浮腫抑制効果が得られるとともに、ヒトSOD蛋白質の静脈内投与または皮下投与に比較して、その作用が顕著に持続化することを認めた。 さらにILSOD(1)cDNA導入肺上皮細胞を胸腔に移植することによりパラコートにより惹起される肺組織傷害の改善されることが明らかとなった。 従って、このようなex vivo遺伝子治療法を応用した細胞性製剤の開発が、ペプチドならびに蛋白質のDDSとして有用であるという結論を得た。これらの結果は、今後ますます注目される生理活性ペプチドならびに蛋白質医薬品を、持続的かつ効率よく体内標的部位へe嵐BするためのDDSの開発に対して有益な知見を与えるものと考えられる。
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