研究概要 |
諸種胃疾患の病態を詳細に解明し、新たな治療薬を開発する為には胃情報伝達物質の遊離動態を的確に把握することが肝要である。本研究では胃情報伝達物質の遊離を指標に、私たちが開発した摘出血管潅流胃嚢標本の有用性と実用上の限界を検討した。実験には、ラットを用いて迷走神経、動静脈ならびに門脈を温存したまま胃を摘出し、Krebs-Ringer氏液を門脈→胃→静脈の経路で潅流した。胃から潅流液中に遊離したNAおよびAChは、それぞれ所定の前処理を施したのち、高速液体クロマトグラフィーを用いて電気化学的に測定した。グルタミン酸(Glu)はBioluminescence法を用いて測定した。得られた成績を纏めると、1)KClの適用ならびに迷走神経の電気刺激は、いずれの場合にもカルシウム依存性のGlu遊離をきたした。さらに、この遊離は神経の伝導を遮断するtetrodotoxinによって消失した。この成績はGluが中枢神経のみならず胃でも神経伝達物質として働くことを国内外に初めて示すものである。2)胃交感神経の電気刺激はカルシウム依存性のNA遊離をきたした。このNA遊離はN型チャネルの選択的遮断薬ω-conotoxin GVIAの前処置によって用量依存的に抑制されたが、他の型のチャネル(T,L,P,QおよびR)の遮断薬では変化しなかった。従って、胃交感神経からのNA遊離にはN型のカルシウムチャネルが関与する。3)迷走神経を電気刺激するとACh遊離を惹起した。このACh遊離はμ受容体刺激薬β-endorphinの前処置によって抑制された。一方、δ受容体刺激薬leuenkepharinならびにχ受容体刺激薬U-50488では変化しなかった。従って、モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬の副作用としての消化器症状は中枢作用のみならず、消化器への直接作用も大きく関与するといえる。{まとめ}今回の摘出血管灌流胃嚢標本は胃の病態生理の解明に寄与するのみならず、胃作用薬の効果検定ならびに副作用の機序の解明に簡便且つ、信頼出来る実験モデルであるといえよう。
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