ヒト細胞表面に特異的なヒト由来モノクローナル抗体は、細胞機能の制御、病態検査等の医薬品としての利用に大きな可能性を秘めているが、特異抗体産生ハイブリドーマの調製の困難さ故にその供給は限られている。最近、繊維状ファージの一つのコートタンパク質上にヒトゲノム中から抗体可変領域だけをPCRで取り出し提示する"ファージ抗体"の系を開発している。本研究においては、ヒト赤血球をモデル細胞として、ヒト細胞表面特異的ヒト抗体を先の"ファージ抗体"の系を更に改良に、ヒト抗体を系統的に同定し作成する系を確立することを目的としている。研究分担者である内川により既に調製されているヒト抗Rh抗体産生ヘテロハイブリドーマまたはヒトリンパ球よりmRNAを調製し、ヒト抗体遺伝子の共通塩基配列より提案されているプライマーを用いて、PCR法によりH鎖可変領域(VH)、L鎖可変領域(VL)を増幅して単離した。各々のVH、VL遺伝子をリンカーとしての(GGGS)3をコードするDNA断片で、VHーリンカー-VLの結合順序で結合し一本鎖化し、この一本鎖可変領域遺伝子をM13ファージの遺伝子IIIと融合させ、ファージコートタンパク質の一部として提示した。このファージ提示の際、熊谷等が最近確立したファージミッドを利用した新規な提示系で安定な提示が可能であった(熊谷)。得られたファージ抗体をRh陽性及び陰性赤血球を使い分けることにより、Rh抗原に特異的に結合するファージを選別した。Rh(D)抗原特異的ファージ抗体はRh(D)陽性赤血球とのみ特異的に結合することをフローサイトメトリーで明確に示すことができた(内川)。
|