本研究では、はじめに、細胞計数実験の顕微鏡写真データの解析を目的とした、自動解析ソフトウェアを開発し、その結果、研究の効率化を図ることが可能となった。本解析システムを用いて、グルタミン酸神経毒性を抑制する神経保護因子を探索するとともに、大脳皮質および網膜におけるグルタミン酸誘発神経細胞死の機構を解明することを目的として以下の実験を行った。1.培養大脳皮質神経細胞におけるグルタミン酸神経毒性に対する、B群ビタミンの一つであるメチルコバラミン(CH_3B_<12>)の作用を検討した。その結果、CH_3B_<12>のグルタミン酸神経毒性に対する保護作用が、一酸化窒素(NO)神経毒性を抑制することにより生じること、また、その作用発現には、CH_3B_<12>が関与する細胞内代謝経路の中間生成物であるS-アデノシルメチオニンを経由した細胞内メチル化反応の促進作用が関与していることを明らかにした。2.培養網膜神経細胞におけるグルタミン酸神経毒性に対するZn2+の作用を検討した。その結果、培養網膜細胞において、Zn^<2+>がN-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体を介する神経毒性に対して有効であることを明らかにした。3.培養網膜神経細胞のグルタミン酸神経毒性におけるNOの役割を検討した。その結果、NOはグルタミン酸神経毒性に対して二相性の作用を有し、低濃度では神経保護を、高濃度ではグルタミン酸神経毒性のメディエーターとして役割を果たすことを明らかにした。グルタミン酸神経毒性は脳虚血や網膜虚血などの原因による神経変性に関与することが報告されており、脳血管性痴呆、アルツハイマー病などの老年痴呆や縁内障との関与が指摘されてきている。本研究の結果は、種々の神経変性疾患に対する神経保護薬の開発研究を推進する上で重要な基礎的資料を提供するものと考えられる。
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