研究概要 |
転写因子による遺伝子発現制御機構を解明することは細胞分化や発癌の機構を理解する上で重要であり、血液細胞はそれを解析するよい材料である。最近、転写因子の変異が白血病細胞での染色体転座と関連して注目されているが,なお未解決な点が多い。本研究では、白血病患者芽球を材料として血球の分化や増殖に関与するGATA因子を始めとする転写因子や分化特異的形質の発現を調べ、その意義を解析する。このような研究は、細胞分化機構や病因への理解を深めるだけでなく、現在主として組織化学的、免疫学的方法によっている病型分類や診断をより合理的に行い、治療に役立てる上でも極めて有用である。 平成7年度には,血球分化の過程で重要な役割を果しているGATA転写因子群の発現様式が、悪性化した造血細胞においても保たれているのか、あるいはどのように変化しているのかを明らかにするため、小児白血病患者の芽球についてGATA因子の発現状況を解析した。18例の骨髄性白血病および24例のリンパ性白血病について調べた結果、骨髄性白血病ではGATA-2mRNAの発現とCD34およびc-kit抗原の発現とがよく相関していた。一方、急性リンパ性白血病患者のCD34陽性細胞ではGATA-2mRNAもc-kit抗原も検出されなかった。また、T細胞性急性リンパ球白血病と診断された8例全例にGATA-3mRNAが発現していたが、B細胞性急性リンパ性白血病の症例ではGATA-3mRNAは検出されなかった。これらの結果は、GATA-2抑制はリンパ球系列への、GATA-3発現はT細胞系列への分化に重要な要件であることを示唆する。このように、白血病細胞でのGATA因子発現様式は正常血球分化における対応する各細胞のものにほぼ一致しており、GATA因子発現の解析は未分類の白血病細胞の分化方向の診断に有用な手段となると考えられる。
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