研究概要 |
1.ヒトRaf-1蛋白質上に従来知られていたRas結合領域とは別に、もう一つの結合領域CRR(Cys-rich region)を発見した。種々のRas変異体を用いて検討した所、CCRとの結合はRasのいわゆるエフェクター結合領域の近傍のアクチベータ領域の変異で失われ、Rasの翻訳後修飾が必須である事がわかった。また、この結合はRasによるRaf-1の活性化に必須であることも証明した。この結果により、Rasのアクチベータ領域の変異体、および翻訳後修飾を受けていないRas蛋白質がRaf-1と結合はするが活性化できない理由がほぼ解決された。現在、大部分の研究者は、翻訳後修飾を受けたRasの役割はそれと結合したエファクターを細胞膜へ連れていく事であり、エファクターの活性化に直接的には関与しないと考えているが、我々が新しく発見したRasアクチベータ領域とRaf-1CRRの翻訳後修飾依存性の結合は、この既製概念を修正するばかりでなく、新しいタイプの抗癌剤の標的となる可能性が示唆された。更に、RasのエファクターであるヒトB-Rafおよび出芽酵母アデニル酸ツクラーゼについて膜成分非存在の試験管内系を用いての活性化能力の測定を行った結果、Rasの翻訳後修飾は両エファクターとの結合親和性に影響は無いが、エフェクターの活性化には翻訳後修飾(特にファルネシル化)が必須であることを証明した。この結果は、Raf-1だけでなく他のエフェクターにもCCRのような第二のRas結合領域が存在する事を示唆した。 2.約50種類の1アミノ酸置換変異体H-Ras蛋白質についてエフェクターRef-1,Ral-GDS,Byr2,酵母アデニル酸シクラーゼとの結合と活性化を測定し、Byr2のみに結合して活性化するD38N、シクラーゼのみを活性化するY32Fなどの各種エフェクターを識別する変異体Rasを得た。
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