研究概要 |
1.約50種類の1アミノ酸置換変異体H-Ras蛋白質についてRaf-1,B-Raf,Ral-GDS,Byr2,酵母アデニル酸シクラーゼとの結合と活性化を測定し、各エフェクターを識別する変異体Rasを得た。しかし、この変異体を用いて各エフェクターの細胞内での役割を識別解析する方法には限界を見い出した。 蛍光偏光度測定法により、種々の1アミノ酸置換変異を持つRasエフェクター領域ペプチド(アミノ番号17-44)が各種エフェクターを識別して結合し、そのRasとの結合を競合阻害することを示した。その特異性はRas蛋白質そのものを用いた場合と同じであった。各種エフェクターの選択的抑制の可能性が示された。 Ras蛋白質とRaf-1蛋白質Cysteine-rich領域(CRR)との間の新しい相互作用機構を発見した。この結合はRasのアクチベータ領域の変異で失われ、Rasの翻訳後修飾依存性である事がわかった。また、この結合がRasによるRaf-1活性化に必須であることも証明した。これに基づき、がん抑制遺伝子産物Rap1Aの作用機構を解明した。Rap1AはCRRに対して非常に強い親和力を持ち、Ras存在下で三者複合体を形成してRasのCCRへの結合を阻害する事により、RasによるRaf活性化を抑制する。 出芽酵母アデニル酸シクラーゼのRas蛋白質による活性化においてRasの翻訳後脂質修飾(特にファルネシル化)が必須である分子機構を明らかにした。Rasのファルネシル化は、アデニル酸シクラーゼとの結合親和力には影響が無いが、Rasによるシクラーゼ活性化に必要である。この翻訳後修飾の活性化促進効果には、アデニル酸シクラーゼがシクラーゼ結合蛋白質CAPと結合していることが必要であった。この結果は、CAPがRasに付加されたファルネシル基の受容体であり、翻訳後修飾の影響を仲介している可能性を示した。
|