研究概要 |
1.実験モデルの作成. 1)ラットモデル;WKYラットにNO合成阻害薬(L-NAME)を慢性投与(100mg/day、8週間)すると血圧上昇(高血圧)に伴って微小血管の中膜肥厚、血管周囲線維化、心筋肥大が生じる。この病変は、hydralazineで血圧上昇を抑制しても観察された。これらの成績は、NO合成阻害によって起こる心血管病変の成立に血圧上昇以外の神経・体液性因子が関与することを示唆する(Hypertension 1995)。 2)ブタモデル;YorkshireブタにNO合成阻害薬(L-NAME)を慢性投与(30mg/kg・day、2-4週間)するとラットと同様に血圧上昇(高血圧)と微小血管病変が生じた。このモデルにおいてセロトニンに対する血管反応を検討した。セロトニン冠動脈内投与による冠血流低下の程度はL-NAME投与群において対照群と比較して有意に大きかった。このことはセロトニンに対し微小冠血管の過剰収縮が起こっていることを示す(Circulation 1995)。 2.微小血管病変の成因の検討 このモデルの微小血管病変がレニン-アンギオテンシン系の活性化によって生じる可能性を示唆する成績を得ている(1995年、米国AHA学会で発表した)。今後、NO合成阻害によるレニン-アンギオテンシン系の活性化の機序を検討する予定である。 二つのモデルにおいて、増殖促進因子(PDGF,FGF,TGFβなど)の発現が亢進していることを遺伝子レベルで確認している(未発表)。今後、増殖因子活性化の機序を検討することによって微小血管病変の成立機構が明らかになると推測される。 3.心筋虚血の誘発 頻拍ペーシングやβ受容体刺激では明らかな心筋虚血は生じなかった。パパベリンの冠動脈内投与によって心筋虚血(心筋乳酸産生と心電図ST上昇)が誘発できた。パパベリン投与によって冠血流は増加するので心筋虚血の原因は盗血(steal)現象によることが示唆された(未発表、平成8年3月日本循環器学会で発表予定)。今後、この心筋虚血の発生機序を明らかにしていく予定である。
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