放射線治療は外科的治療に比べ、治療後の機能障害および審美的障害が少ないことから、顎顔面領域の悪性腫瘍の治療に多用されている。しかし、現在に至るまで放射線治療を選択するにあたっての判断基準はなく、症例によっては放射線治療に耐性を示す場合もあり明確な判定基準の設定が望まれる。ところで、放射線照射による細胞のアポトーシスの誘導にp53遺伝子が関与していることから、p53の変異の有無は悪性腫瘍の放射線に対する感受性を左右する因子の一つであると考えられる。そこで本研究においては、大阪大学歯学部歯科放射線科を受信した患者の放射線照射前のbiopsyからp53の変異の有無を判定し、放射線治療成績との相関性を検討することを目的とした。 1、平成7年度以前のbiopsy材料から、効率よくDNAを調整することに成功した。ついで、p53のexon5、exon6、exon7、exon8のプライマーを用いてPCR法によってp53遺伝子を増幅させた。増幅したp53遺伝子にmutationがあるか否かを判定するためにSSCP法によって変異の有無を確認した。2、それぞれの患者の放射線治療成績を評価するために、治療前、30Gy照射時、および治療終了時の腫瘍の大きさの変化を調べた。3、以上のp53のmutationの有無と放射線治療成績の間に、強い相関性があるか否かを検討した。この結果、本年度までに試料として利用可能であった症例に関しては、相関性がなかった。 最近p53遺伝子のmutation部位が悪性腫瘍の予後を左右することが報告されており、今後p53遺伝子mutation部位についても検討する必要があると考えている。さらに臨床成績に関しても、腫瘍の大きさの変化以外の因子について考慮していく予定である。
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