研究概要 |
1.はじめに 近年,各種コンピューター機器は著しく発達しており,それに伴い身障者が比較的容易に情報処理業務に従事する機会が増えている.中でも特に,多種多様なコンピュータへの入力機器が開発され,その多くが実用化されている.このような事情からも,入力機器の使いやすさを実験的に評価することは大変重要である. コンピュータへの入力機器の操作性を評価するためには,カ-ソルを移動させてクリックするまでのポインティング時間やターゲットのクリック成功回数を表す精度等を考慮しなければならない.文献[1,2]はマウスを含む6つの入力機器に対してポインティング時間や正答率を求め,習熟曲線から学習の容易さを統計的に分析することを試みている.また文献[3,4]では,移動比率と分解能の要因がどのようにポインティング時間と正答率に影響を及ぼすかについて検討している.さらに文献[5]は,移動距離や操作スペース,ターゲットの形状等合計6個の要因の影響を比較したポインティング実験を行っている.しかし,以上5つの文献で扱った実験は健常者を対象にしたポインティング実験であり,身障者が必ずしもこのデータや結果にあてはまるとは言い難い. 身障者にやさしい情報処理技術を考えるときに,コンピュータ入力機器の操作性に関する研究は重要である.文献[6]では重度身障者を対象に,数種類の入力機器の操作性について簡単な実験を行い,マウスが最も使いにくい入力機器であることを結論づけている. そこで本研究では,身障者が実際に数種類の入力機器を使用する場合において,操作性に影響を与える要因を統計的に分析する.特に,分散分析を行うことによって,各入力機器に対する操作性を定量的に評価する.最終的に,これらの評価結果を基に身障者のためのコンピュータアクセス環境を設計することを目指す. 2.実験結果 ポインティング実験の結果は以下の通りであった. 正解率に関して障害の有無と移動距離に有意差が認められるが,その他の要因では有意差は認められなかった.各要因の水準間でも同様に有意差は認められなかった.よって,移動距離が強く正解率に影響を及ぼしていることから,カ-ソルからターゲットまでの距離を短くすれば,身障者と健常者の正解率に関するハンディキャップは解消すると結論づけられる. ポインティング時間に関して有意差が認められた要因は,障害の有無,移動距離,ミッキー/ドット比,ターゲットの形状であった.よって,ポインティング時間に関して,移動距離,ミッキー/ドット比,ターゲットの形状がポインティング時間に強く影響を及ぼしている.このように,ほとんど全ての要因で有意差が認められたことから,現状の入力機器では身障者のポインティング時間を短縮することは困難であると思われる. 水平方向の移動量に関して,障害の有無とミッキー/ドット比が強く影響を及ぼしている.一方,垂直方向の移動量に関して,障害の有無のみが影響を及ぼしている.このことから,今回の実験を行った身障者にとって垂直方向にカ-ソルを動かすことは容易でないことがわかった. 正解率とポインティング時間ともに,入力機器の中ではジョイスティックが短時間かつ誤りなくポインティングできていることがわかる.一方,ジョイカードは正解率は低く,ポインティング時間も長く必要となった.これは,ジョイカードを使用する際にはカードを掴まなくてはならず,握力の弱い身障者にとっては非常に扱いにくかったことが理由として挙げられる.また,マウスはクリックする際に指でボタンを押さなくてはならないので,指の細かい動きが不得手な身障者にとって扱いにくかったことが考えられる.
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