研究概要 |
本研究ではトリチウムβ線による哺乳動物細胞の突然変異能の分子レベルでの解析を目的としてトランスジェニックマウスの応用開発を試みた。Gossen等によって作製されたIngenoマウスは、約40コピーのlacZ遺伝子をpUR288ベクターと共にマウスゲノムに導入することによって、従来検出が困難であった欠失タイプの突然変異能の測定が期待されている。本研究では、トリチウムβ線によって高頻度に誘発される欠失突然変異を測定するために、Ingenoマウス細胞株の樹立やゲノムlacZ遺伝子の大腸菌の回収法や突然変異IacZ遺伝子のポジテブ選択法に改良が行われた。この結果、放射線による欠失突然変異がIngenoマウスで検出可能であることが判明した。各種エネルギーの中性子線や加速重粒子線を用いたIngenoマウス突然変異のRBEは既存アッセイ系のRBEと同程度でその有用性が確認された。但し非照射細胞および5Gy,10Gyガンマ線照射細胞の突然変異頻度はそれぞれ3.22×10^<-4>,5.37×10^<-4>,4.68×10^<-4>と現時点では放射線感受性が低く、低濃度トリチウム照射実験には更なる改良が必要である。中性子や加速炭素原子の実験からトリチウムRBEは2前後と推定された。Ingenoマウスの放射線低感受性の原因を明らかにするために、ヒトX染色体を移入したハムスターハイブリット細胞の突然変異による検証実験を行った。この結果から、今後100倍程度高感受性のトランスジェニックマウスの開発が可能であることが実証され、ホルミ-シス効果のような極く低濃度トリチウムや変異DNA塩基解析によるトリチウム被曝の特異性研究などへの応用が期待できることが明らかとなった。
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