平成9年度の研究計画に従い、開発した装置の応用実験を行った。水平式の光学系を持った実験装置の設計・開発を行って来たために、外部からの紫外線導入など、光学系の変更が非常に容易であった。波長350mmの紫外線(超高圧水銀灯)を使って観察試料を落射照明できるように改良した。この装置を用い、以下のcaged-ATPを使った新しい実験を試みた。トリトン処理したウニ精子鞭毛を実験材料として、瞬間的(数ミリ秒以内)にATPを付与し、その時の微小管滑り運動をnm〜数百pmの精度で計測することができた。その結果、鞭毛軸糸の中のダイニンがATPと結合し、ダイニン・ADPの反応中間体となったものが、滑り力発生(運動の開始)に関与している可能性が最も高いことが証明できた。これはこれまでテトラヒメナを使って行われてきたダイニンATP加水分解酵素に関する生化学的な報告を裏付ける結果であり、ダイニンのin situでの酵素化学反応論的な実測としては、はじめての報告である。反面、ダイニン・ADPと急速に結合するために強い阻害効果を持つと考えられて来たバナジン酸は、この運動開始に関わっていると考えられるダイニン・ADP反応中間体には全く作用しないということもこの研究で判明した。力発生のメカニズムを理解する上で非常に重要な知見である。
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