本研究では、動物の頭骨を一部除去し露出させた脳表面から神経活動を反映した光信号(脳表面に光を当てたときの反射光や蛍光強度変化)を高い時間及び空間分解能で記録する計測システムの開発を目指している。特に、2つの点からこれを進めている。第一は、神経の活動を光信号に変換する効率のよいモレキュラープローブの開発であり、第2は、2つの波長からの映像を同時に捉えそれらのアナログ的な差分を行うことによって、ある波長に特有の信号のみを効率良く検出するハードウエアーの開発である。本年度は、特に、第一の項目に関する色素のデザインと試作、及び、試作した2波長差分計測装置を用いて内因性光信号の計測の試みを行った。 (1)色素のデザインと試作:光信号への変換効率を上げるために、2つの色素の間の蛍光エネルギー移動を利用することを検討した。一つは膜電位変化にともない膜内での配向を変化させる性質を持つ色素としてメロシアニン540を、また、メロシアニンにエネルギーを与える色素(ドナー)としてフローレッセインを用いて、両者を連結した色素を合成した。この新たな色素は、膜電位変化にともなって、メロシアニン部位が向きを変えるため、色素間の距離が変化するため、蛍光エネルギー移動が起こることを利用した膜電位プローブとなることが期待される。現在、この色素の特性の評価を進めている。 (2)ハードウエアーの開発:2波長差分を行うための電気回路と光学系を試作し、まず、脳表面を走る血管に含まれるヘモグロビンの酸化還元に伴う吸収変化として神経活動を反映する光学的応答のリアルタイム計測を行った。その結果、ネコ大脳皮質視覚野より視覚刺激に対する応答の記録に成功し、本システムの有効性が明らかになった。
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