本研究の目的はエバネッセント光のイメージングにおける特質を光ピンセット法のもつ超微操作と組み合わせて新しいタイプの顕微鏡を開発することである。 エバネッセント光は光がガラス-水界面で全反射したときに界面付近に局在して生じる光である。エバネッセント光はその性質上ガラスに吸着したものや界面から数百メートル以内にあるものしか照らさない。たとえばこれを蛍光顕微鏡の光源として用いればバルクにある蛍光分子を励起することなく界面付近のものだけを見ることができる。しかしながら、光ピンセット法と組み合わせるためには従来のエバネッセント光発生法と異なり対物レンズに接触する厚さ0.2ミリメートルのカバーガラス内を全反射によって光を伝搬させカバーガラス上にエバネッセント光を発生させる工夫が必要だった。 現在新しいエバネッセント光発生方法についてはめどがついた。即ち、カバーガラス内を伝搬する光が作るエバネッセント光を光源として、界面付近で蛍光ラベルした蛋白質(アクチンモノマー)が重合しフィラメントを作っていく過程の映像化に成功した。 光ピンセットについては既存の光学顕微鏡に組み込むためのインターフェースの設計・製作が必要であった。とくに対物レンズ瞳の外部への投影位置決定に関して、結像系のパラメータを求めるのがかなり困難な作業だった(パラメータは顕微鏡会社の企業秘密であり実験的に求め、計算と推測を交えて決定せねばならなかった)。しかしパラメータの決定によって最終的に設計が可能となり、現在製作段階にある。カバーガラス上にくっついた細胞が動き回る時の細胞各部分での弾性測定を行うため、光ピンセットで保持した弾性測定用プローブの位置変化をエバネッセント照明で測定する実験準備を進めつつある。
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