本研究の目的は、蛋白質分子の超微操作と一分子観察を行うための顕微鏡システムを構築することにあった。この背景には光ピンセット法により蛋白質一分子の操作が可能となり、一方でエバネッセント光励起によって低バックグラウンド光の元で蛍光一分子を観察することができるようになったことである。 本研究では倒立型落射蛍光顕微鏡において光ピンセットとエバネッセント光励起のための光学系を組み合わせることを試みた。具体的にはサンプルをのせたカバーガラス内を全反射を繰り返させてYAGレーザー光或いはアルゴンイオンレーザー光を導き、顕微鏡視野内にエバネッセント場を発生させるというものである。これによって光ピンセットとの組み合わせが容易になると考えられた。光ピンセット法については基本的方法ならびにその応用をアクトミオシンモーターの力発生素過程計測およびアクチン-αアクチニン結合寿命測定という形で確立できた。また、全反射でレーザー光を導波してエバネッセント場を発生させ蛍光一分子を観察することも可能となった。ただ、両方法を組み合わせる段階で当初予想しなかった困難にぶつかった。それは、新しい方補を取った場合、対物レンズの赤外光に対する収差が予測しなかったほど強く現れ、その結果光ピンセットによる超微操作がほとんど不可能になったということである。この困難に対処すべくいくつかの方法を試みたが、赤外光まで収差を取り除いた対物レンズの設計が問題の根本的解決につながるということを結論として得た。赤外光を蛍光顕微鏡光源として使いたい「需要」は実は増加しつつあり、本研究で得られた結論の方向と一致していると考えられるので、今後光学顕微鏡メーカーと緊密な協力関係を樹立し対物レンズの新しい設計をすることが重要になると考えている。
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