細胞や生体超分子システムなどの機能の構造的基礎を理解するためには、これらを生きている状態で、あるいは、機能状態で観察・観測することが必須である。このためには、光学顕微鏡が有用であるが、分解能がいかにも低く不十分である。もし電子顕微鏡なみの分解能をもつ光学顕微鏡ができれば、これは、細胞生物学、生物物理学、分子生物学、生理学、病理学、薬理学等に画期的な進歩をもたらすであろう。本申請研究の目的は、近接場顕微鏡の開発を推進し、水溶液中の細胞膜や培養細胞について、光学顕微鏡の回折限界をはるかに越える分解能での光学観察を可能にすることである。 本年度は近接場-原子間力顕微鏡を開発し、非接触モードの原子間力顕微鏡によるカンチレバ-(プローブ)と試料間の距離の制御に成功した。これは、水中でもおこなうことができた。水中で使用できる近接場顕微鏡は、世界で初めてのものである。試料からの蛍光、または、散乱光を、通常の光学顕微鏡の対物レンズ(40倍、開口数0.9)で集光して、光電子増倍管で検出した。また、試料とカンチレバ-は、ビデオモニターで観察しながら、位置を調節できるようにした。 この装置を用いて、培養液中での培養細胞の観察をおこなった。培養細胞は、パラフォルムアルデヒドで固定したものである。通常の光学顕微鏡法では、分解能とコントラストの問題で見えないような細胞内の線維構造が、きわめて明瞭に観察された。分解能は50nm程度であった(光学顕微鏡より6倍良い)。
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