生体から単離した嗅細胞のチャネル活動をパッチクランプ法を用いて記録して、記録の最中に細胞にケージド化合物を適用する励起用システムを開発した。嗅細胞における匂いの情報変換は、細胞内のcAMPに制御されることが知られており、細胞内cAMPをケージド化合物を用いて自由に制御出来れば、嗅覚情報変換のシステムを定量的に解析することが可能である。嗅細胞の大きさは約10ミクロンと小さく、長時間の記録を行うことは困難である上に、ケージド化合物を励起するためのUV制御装置の振動などは記録を行う上で致命的とされる。そこで、UV光源とその制御部を記録を行う顕微鏡とはクオ-ツ製の光ファイバーで機械的に離し、光ファイバーの出力を倒立型顕微鏡の落斜蛍光装置に接続した。 光源には、100Wキセノンあるいは水銀ランプを用い、光のOn/Offをシャッターで制御した。UV光量は、ウエッジフィルターで調節し、21og unitの変化量を持たせている。このシステムを用いてUV光を照射した場合、500uMのケージドcAMPをロードした単離嗅細胞では、20msecの光パルスによって、匂い応答の飽和量の電流と同様の振幅を持つ電流応答を記録することが可能であった。これらのシステムは、すべてパッチクランプの実験を制御する自作プログラム(Pascal言語)との統合環境下にあり、パッチクランプ実験を行いながら、UVの光量、光刺激タイミングを自在にコントロールできる様になっており、実験の確実性、迅速性に優れるシステムが整いつつある。現在、嗅細胞のcAMP感受性を利用して、既知濃度のcAMP応答とケージド応答との比較を行い、ケージド化合物の活性と光強度との関係を調査中である。 また、本研究では、最終的には脳内のニューロンにケージド化合物を適用することを目標とする。そこで網膜細胞をモデルとして実験を進めている。金魚網膜から、視覚系の二次細胞である水平細胞を単離し、パッチクランプ法でグルタミン酸とGABAに対する細胞応答を得た。上述のケージド化合物制御システムを用いて、ケージドGluやケージドGABAの作用機構を調べる実験を進めている。
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